理由

理由 特別版 [DVD]

理由 特別版 [DVD]

宮部みゆき原作のこの映画ですが、見終わったいま、ため息が出るばかりです。
この作品は、トリックがすごいとか大どんでん返しがあるとかそういうのがすごいわけではまったくない。なんというか、名画のように完成度の高い物語の全貌があって、最初はそれが全部細かい紙片に覆われて隠されている。で、話が進むたびにペリペリっと物語の全貌を隠している紙片がはがれていって、名画がその姿を徐々に現していくんですよ。紙片は端っこの方から順々にはがれていって、部分的にでもその姿があらわになっていくと、「ああ、早く全部見たい。いったい全貌はどうなってんの?」っていう感じにモヤモヤするのですが、ときおり、全然違う所がペリっとはがれて、「え? こんな場所をはがしちゃうの? ああ、じゃあこれはあのはがれてるところと、どうつながるんだ!」っていう感じでどんどんのめりこんでいってしまう。
もちろん、”誰がやったのか”というミステリのジャンルのひとつで括られる作品ではあるのだろうけど、これだけ物語で引き込んでしまうのは、作品全体の完成度が高いせいなんだと思う。なぜなら、「理由」にはミステリの命ともいえるトリックなどはまったくないし、別に意外な人物が犯人と言うわけでもない。しかし、見終わった後に「はぁ〜、すげぇ……」という言葉が出てくるのである。
見ている間、僕は事件に関わった人たちの”理由”が明かされるたびに「はぁ……」とか「なるほど……」とか「それで……」と納得し、「で、それから?」と次なる”理由”への好奇心が生まれ、どんどん引き込まれていった。そして、事件の全貌と殺人者の”理由”が明かされたとき、「はぁ、すげぇ……」と言ってしまったのである。
この感覚は以前にも感じたことがあって、それは同じ宮部みゆきさんの作品「火車」を読んだときに感じたものだと思い出した。これも、「理由」と同じ手法で描かれた作品で、そのときは何だかよくわからないドキドキを感じながら読んでいて、そして読み終わった後に同じようにため息をついた。宮部さん作品を読んだのは「火車」が初めてで、これをきっかけに読み始めたわけだけど、あれから数年、そのとき感じていた何だかよくわからないドキドキの正体を、いまになってやっと知ることができた。本当に宮部さんはストーリーテリングがすばらしい。いまとなっては「火車」の詳細はすでに忘れてしまっているので、もう一度読んでみようかな。
この「理由」というミステリ作品は、斬新なトリックが解き明かされる「なるほど!」というカタルシスは得られないけれど、切なく、そして深い人間ドラマを堪能できる良い作品だと思うので、これは本当にオススメです。