半端な記事を書くな!

まずはこの記事を読んで欲しい。
社保庁、医療費減額を通知せず・埼玉など7県で
厚労省、医療費減額通知の徹底要請へ・市町村国保と健保組合に
――NIKKEI NETより。
 
これらの記事内にある、

医療機関が請求した医療費を審査支払機関が減額査定していたのに、それを患者に通知していなかった事例があったと発表した。患者は本来払い戻されるはずのお金をもらい損ねている恐れがある。

医療機関で支払った医療費が審査支払機関の査定で減額された場合に、患者への通知を徹底するよう要請することを決めた。

 
これはどういうことかというと(長文注意!)、
医者にかかったらその医療費は、患者は自分の保険の資格に応じて一部を負担することになっている。そして、残りの医療費は国民健康保険社会保険(これらを総称して保険者と呼びます)が負担するというのが、保険制度の仕組み。つまり、通常、患者は総医療費の1割から3割を負担していることになる。ちなみに、医療費は行為ごとに点数制で計算し、1点10円で計算する。
で、残りの7割から9割の医療費は、毎月10日に保険者に請求(その際、患者ごとの一か月分の医療費を、レセプトと呼ばれる明細書にまとめて提出)するのだけど、いったん審査機関がその内容をチェックして、それが”認められれば”保険者から医療機関に診療報酬として、残りの医療費が入ってくることになる。この”認められれば”というのがクセもので、審査機関はレセプトに記載されている医療行為を不必要と判定すれば、それを査定する。つまり、医療費の総点数が下がるのだ。すると……、はい、もうお分かりですね。総点数が下がれば、患者負担の割合に応じて、”本来患者が払うべき負担額”も下がるので、その結果”医療費払い過ぎ”という状況が生まれるわけだ。
これは、その「医療費の負担額が減額になりましたよ」という通知を怠っていた。というニュースなわけだけど、実はこの「請求→審査→査定→減額」という一連の流れは、ここで終わりではない。査定されたものの中には、不必要な医療行為が含まれていることもあるだろうし、医事の入力ミスによるものもあるだろう。しかし、本当に必要で行った医療行為であるが、その根拠が不明確であるが故に査定されてしまっているものもあるのだ。
このとき、病院側も黙って査定を受け入れるわけではなく、なぜその医療行為が必要だったか、なぜこれだけの医療費を請求しているかの根拠を詳しく書いた、「病状詳記」を医者に書いてもらい、それをレセプトに添付して再提出する(これを再審査請求という)。この再審査請求が却下されて、初めて医療費の還付が発生するのだ。
で、この再審査請求のことにまったく触れずに、”通知漏れがあった”ということだけ書かれると、まるで病院は医療費をボッていて、保険者はそれを助長しているかのような印象を与えてしまう。
 
ちゃうねんと。理由があんねんと。それもちゃんと書けやと。
 
もしかするとこの記事を読んで、自分の医療費に疑問を抱いて保険者からレセプトを取り寄せて、点数を計算してみると還付額が大きかったので、病院に問い合わせたら「現在再審査中です」と言われた人もいるのではないだろうか。査定額が大きければ大きいほど再審査請求は行われるので、こういったケースはけっこう多いはず。
たしかに、すべての査定に対して再審査請求をしているわけではない(と思う。この辺は病院によってマチマチだと思う)ので、還付されるべき医療費を受け取っていない患者がいることもまた事実。しかし、還付額によって通知するか否かを判断しているのは保険者で、その線引きの基準をどう設定するのかは悩ましい問題だ。だからと言って、すべての還付を患者に通知すると、医療機関はその対応に追われ、業務が成り立たなくなっていき、場合によっては経営が破綻する病院も出てくるだろう。
そのあたりのこともちゃんと考えて記事を書いて欲しいわけですよ。医療費について問い合わせがあったときに、きちんと説明するのは医事務の務めですが、こういった記事を読んで問い合わせをしてくる患者さん(やその家族)は、「ボッたくっているに違いない」という先入観を持って問い合わせてくる人が多いので、対応がデリケートなんだよ、難しいんだよ、こじれるんだよー………。
 
 orz
 
という、医療事務の永い永いボヤきにお付き合いいただき、ありがとうございました!*1

*1:アレですよ。問い合わせるな、と言っているのではないですよ。還付が遅れるにはそれなりの理由もある、ということですよ。払いすぎていることが明確な場合(薬の処方量が多すぎるとか、受けた覚えのない医療行為が領収書に記載されているとか)は気兼ねなく医事課や受付に問い合わせてみてください。きちんと説明してくれるはずですし、間違いがあればその場で返金してくれるはず。曖昧な返答しか得られなかったり、専門用語でケムに巻くような場合は逆に怪しんだ方がいいでしょう。医療機関でもレセプトは(原則)もらえるはずなので、それを領収書といっしょにもらうのもよいかも。