ミッキーマウスの憂鬱

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

 
まず始めに言っておきたいことは、
「この物語はフィクションです」
ということ。そして……、
夢と魔法の王国は人が創りあげたものだということ。
 
本書の主人公は、東京ディズニーランドを運営する会社で「派遣社員」として働く、夢と希望に溢れた青年だ。彼は夢と希望を空回りさせつつ奮闘するも、夢と魔法の王国ディズニーランドの”現実”を知り、そのギャップに愕然とする。しかし、キャストとして王国の真実を体験することで、いかにしてディズニーマジックが成り立っているかを知るのだった。
 
なーんつってもう、これは本当にスゴイ本だ。リアリティのあるノンフィクションのような設定(作中に登場するキャラクター、アトラクションの名前は実在するものと同じ)に、フィクションの味付けをすることで、極上のエンターテイメントに仕上がっている。しかも、味付けが絶妙のさじ加減で、素材の味が見事に引き立っている。あまりにも味付けが見事なので、本書を読むことで「これがディズニーランドの裏側だ」と勘違いする読者もいるだろうなと、容易に想像がつく*1
念のためもう一度書いておく。
 
この物語はフィクションです。
 
冒頭から中盤にかけては、やや暴露話のような内容に不安もあったけど、事件勃発から真相究明、解決、エピローグにいたるまでの展開はものすごくテンポがよく、一気に読みきった。いやー、ジェットコースターのようだった、いやビッグサンダーマウンテンか。
本当に丁寧な取材を試みて、それをどうすれば活かしきれるかを練りこんで執筆されたのだろうなぁ。読者の期待する内容を盛り込み、また取材対象へのリスペクトを忘れない、極上のエンターテイメント小説だった。
ドラマ化してほしいけど、絶対に無理だなw

*1:いちおう最後の解説に、本書の味付けの一部が明かされている