それは考えすぎでしょう

ブラックマヨネーズの漫才は、完成度が非常に高い。
知らない人のために解説しておくと、彼らはボケの吉田(ブツブツ)が何かを心配しており、ツッコミの小杉(ハゲ)がアドバイスをするけど吉田はさらにそのアドバイスに対して心配して……、ということを繰り返して笑いを取るネタで有名になった漫才師だ(このネタでM-1覇者となったので、そう言って差し支えないだろう)。
M-1で優勝したときのネタの流れはこうだ。いつものように吉田が相談して、小杉がそれにアドバイスする。彼らの掛け合いが始まると、最初はゆっくりと、そしてだんだんヒートアップしていき、それにつれて客席も盛り上がっていく。二人のテンションはものすごく高い。観客のテンションもものすごく高い。そしてその盛り上がりが最高潮に達したとき、ボケがツッコミの頬をはたいて、そこでドッと客席が沸く。
そこで二人は冷静になる。
そして吉田(ボケ)がおもむろに「もうお前に相談すんのやめるわ」と言う。
「ほんならどないすんねんな」小杉が聞く。
するとこの言葉で締めるのだ。「いつも行ってる皮膚科の先生に相談するわ」
そしてお決まり「もうええわ」だ。
この漫才の流れ、どこが完成度が高いかというと、漫才をやってる二人と客席のテンションがほぼリンクしているということだ。すごく一体感があるのだ。漫才をやってる二人だけが声を張り上げて盛り上がるわけではなく、客席も同じリズムで盛り上がっていく。そして、吉田が小杉をはたいた瞬間を最高潮として、それを堺に後はすっと波が引いたように静まる。そしていつもの締めのセリフとなる。この、ネタと笑いの一体感に完成度の高さを感じるのだ。
さらにこのネタのすごいところは、言葉選びさえしっかりすれば、無限にネタが作れるところにある。世に心配事のタネは尽きないのだから。
 
当初、この二人の漫才を「ボヤき漫才」と評されるのを聞いて、違和感を感じていた。どうもしっくりこない。「オーソドックス」というのとも少し違う。何か異質なものを感じていた。しかし、某テレビ番組で、やしきたかじんさんが彼らの漫才を「ノイローゼ漫才」と言っているのを聞いて「これだ!」と思った。そうか、ノイローゼなんだ。
 
ブラックマヨネーズのネタで、吉田が相談するのは他愛もないことだが、それに対する小杉のアドバイスに端を発して、吉田はそのアドバイスにそんな心配をするのか、という感じでどんどんエスカレートしていく。そんな吉田の心配に対して、小杉のアドバイスはどんどん投げやりになっていく。心配性すぎる相談と投げやりなアドバイス。そんなやり取りが続いて、二人はヒートアップしていき、どんどんヒステリックになっていくのだ。
この吉田の心配性すぎる様はまさに「ノイローゼ」。漫才だから笑っていられるけど、普通に考えたらこのやり取りは病的だ。
 
そう考えたとき、この漫才は”ノイローゼ気味な人へのアドバイスが、なかなか上手くいかない”という光景を巧に笑いに変えているんじゃないかと思えてきた。すごいブラックユーモアに溢れた漫才なんじゃないかと。だから、締めの言葉は必ず”いつも行ってる医者に相談する”という形なのではないだろうか。さすがに「心療内科の先生に相談する」ではストレートすぎるので、吉田のブツブツをうまく使って「皮膚科の先生に相談する」なのではないかと。まぁ本人たちがどう考えてネタ作りをしているのかは知らないけど。
 
そんなことを考えると、彼らの名前「ブラックマヨネーズ」でさえ、ブラックなネタをマヨネーズで少しマイルドにするよ、という意味で「ブラックマヨネーズ」なんじゃないかと勘繰ってしまう。
 
ああっ! 誰か言ってください! 「それは考えすぎでしょう」って。

この文章は、M-1グランプリで初めてブラックマヨネーズのネタを見て、その後1回だけ彼らのネタを見て、さらに1週間以上経ってから考えたことを書いています。
また、「ノイローゼ」という病気に対する僕の認識は正しいものではないかもしれませんので、もし僕の謝った認識が誰かを傷つけるものであれば、ただちにこの記事を削除しますので、その旨ご指摘いただければ幸いです。