LOAN(2)

前回までのLOAN……。
 
「住宅ローンの審査が遅れています」
「最初は、ローンの事前審査を通ってから契約するという段取りでしたが、それでは間に合わない可能性が出てきたので、先に契約をしてから審査結果を待ち、決済に臨みましょう」
「契約時に手付金は必要ですが、住宅ローンの審査に、もし万が一、いや全然心配してないですけど、もし仮に通らなくても、ローン特約があるので、手付金は全額無利息でお返しすることになってます」
「今日はとりあえずこの契約書案をお持ち帰りになられて、よく目を通して置いてください。それで、なにか不明点があれば、またおっしゃってください」
 
そうまくしたてられ、まぁそういうことならと契約書案を持たされたのが木曜日。そして、翌日作戦会議を彼女の家で行う……。
 
 
【金曜日・午後1時】
 
「問題はこれだよね、『ローン特約』(※)。基本的には、こっちが指定期日までに必要な手続きを故意または過失によって怠った場合は、こちらにペナルティ(手付金没収)がある。要は期日までに審査にさえ通れば問題ないし、通らなければ諦めないといけないっていうだけか。あと、決済日以降に売主が手続きを怠ったら、こっちに違約金を請求する権利があるということやね」
「お互いにやることやったうえで、間に合わなかった場合は、契約は白紙と」
「うん。まあ大丈夫かな」
「だね。契約書のちょっと意味が分かりにくいところとか、想定できるケースについてどうなるのかを確認すればいいか」
「だね」
 
なんていう会議が行われ、その日は、まだ物件の写真を撮っていないことや、折りしも小雨のぱらつく天候だったこともあり、もう一度物件を内見しておくかということで、担当者Hと連絡を取った。
 
そして数時間後。
物件の内見も終わり、担当Hより報告と提案があるとのことで、不動産屋本店へ向かう。
机に着くのもそこそこに、担当Hはこう言った。
 
「少々、いま事前審査に出してる都市銀行の住宅ローンの審査が難航しております。いや、ほんとに、お客様の信用とは関係ない点で、難航しているんですよ。なので、これ以上何を出して欲しいと言うわけではないんですよ。ほんとに銀行の都合です。正直、頭にきます」
「はぁ」
「正直、いま事前審査に出してる都市銀行だけでは、雲行きが怪しくなってきておりまして、これは保険が必要かもなと、そう思ってるんです」
「ふんふん」
「それで、どうでしょう。都市銀行だけではなく、地方銀行にも審査書類を出してみては。いま私が考えてるのは○○銀行、△△銀行、□□銀行なんですけど。そこにも出してみて、可能性を高めてみては」
「え。それは……、どうなのかな……」
「今回は本融資決定の指定期日までの時間があまりないので、いきなり本審査に出して、スピーディにことを運ぼうと思います。そのほうが確実でしょうし」
「うーん」
「とりあえず、契約は明後日の日曜日ですから、それまで検討していただいて、日曜日の契約後に、このことは進めていきましょう」
「はぁ。そうですね……」
 
そういうやりとりがあり、突然出てきた「地方銀行での借り入れ」という事態をうまく飲み込めないまま、その日は帰った。
 
 
【土曜日・午後18時頃】
 
僕は仕事だったので、地方銀行についてはあまりリサーチできなかった。
しかし、彼女は午後で仕事が終わるので、その後の時間を利用して、地方銀行について徹底的に調べていた。金利や返済プランなど、分かる範囲のことはかなり詳細に調べ上げ、その金利・返済プランでの月々の返済額までシミュレートしていた。実はそれ以前にも、都市銀行で住宅ローンの借り入れをする場合、どんな返済プランで返していくのがいいのか、逐一シミュレートしていたのだ。
さらには、この短期間で地方銀行で借りた場合と、都市銀行で借りた場合との比較とかもしていた。いや、冗談抜きですげー。さすが理系脳。
そんな彼女が、可能な限りシミュレートした結果、こう言い放った。
 
地方銀行は無理!!」
 
 
 
(続く)
 
 
 
※ローン特約についての説明
1.買主(僕ら)が住宅ローンの審査に必要な書類を提出したが、結果融資を受けられない場合は、買主はこの契約を無条件で解約できる。
このとき、売主は手付金を無利息で買主に返還する。但し、買主の故意または重大な過失により、融資決定の実現を妨げた場合は、この限りではない。
2.本融資(住宅ローンの審査に通ること)交渉の期限は平成△年○月×日までとする。